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東京地方裁判所八王子支部 昭和40年(ワ)306号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、被告会社に雇用されてブルドーザーの運転業務に従事していた訴外山崎光義(編注、原告の子)が昭和四〇年一月一二日午後一時頃、埼玉県所沢市字北野一五六番地附近一帯の被告会社請負に係る宅地造成工事現場において、工事に使用すべきブルドーザー一台を積載運搬して来たトレーラーからこれを地上に卸下する作業中に、ブルドーザーがトレーラーから転落し、その転落ブルドーザーの下敷きとなつて間もなく死亡したことは当事者間に争いがない。

二、被告は、積載物を運搬車輛から卸下するのは、物品運送業者の業務範囲に属するものであり、殊に積卸に特殊の経験と技術とを必要とするものにあつてはこの理は特に自明である旨主張する。まことにそのとおりである。しかしながら、特殊な物品にあつては、その卸下義務の履行に荷主の協力を必要とするものがあることもまた事物自然の性質として当然であるか、または暗黙の特約の成立しているものと推認すべきである。本件ブルドーザーの卸下については、暗黙の特約の成立が証拠によつて認められるのであつて、<証拠略>によると、卸下地点の選定指図は荷主側の現場監督によつてなされるべきこと、卸下の方法としては、積卸用の機械等を特段に使用せず、運搬車輛たるトレーラーの荷台後尾に車輛附属の木製渡し板をつけて荷台と地上とを連絡し、その上を荷主側のブルドーザー専属運転者が自ら運転したブルドーザーを後進せしめつつ移動して地上に卸下するものであつたこと、荷主たる被告会社と運送業者たる訴外会社「金森運輸」との間に暗黙の合意があつたものと認められるのである。すなわち、荷主側の協力として、被告会社のブルドーザー運転者の運転自動による地上への移動が必要であつたのであつて、卸下は、被告会社の業務範囲にも属するものということができ、卸下についての過失の有無は、訴外会社側と被告会社側との双方について審案されねばならないのである。

三、原告は、被告会社の現場監督水村常雄の指図と誘導との上における過失に因るものとして、民法第七一五条の規定による被告会社の責任を主張し、被告会社は、ブルドーザー運転者山崎光義の自ら招いた事故であるとして、被告会社の業務執行について水村の過失を否定し、被告会社には責任がない旨抗争する。

1<証拠略>を綜合すれば、次の事実が認められ、この認定を覆えすに足る証拠はない。

訴外会社「金森運輸」の業務としてトレーラーを運転して本件宅地造成工事現場に到着した運転者室井邦雄は、現場東側を南北に貫く道路(北方から走行して来た)上に停車し、附近に居た被告会社の現場監督の水村常雄にブルドーザー卸下の場所の指図を求め、その停車位置に卸ろすよう指示されたのであるが、卸下については前叙のように被告会社所属のブルドーザー運転者山崎光義の運転による自動降下が必要であつたところ、顔見知りの光義が西方約五〇米離れた地点にいて、両手を挙げて自分の方へ来るよう合図をしているのを認め、ブルドーザー使用の具体的場所がそちらであるものと判断し、光義の作業場所に接近した上で同人にブルドーザーを運転させて卸下しようと考え、水村現場監督の指示に重きを置かず、右接近のためにあらためて水村の指図と誘導を求めることもせず、前記停車地点から光義の位置を目指し、停止道路と丁字路をなす巾員約三・米の道路内にトレーラーを進入させて行つた。ところが右道路は、両側が水田で、水田面から約一・五米高い土手状をなしており、しかも進入道路右側には水田埋立用の運搬土が堆積されていたため、これを避けて道路上を左側に寄り、左側土手際近くを進行したところ、約一〇米進入したとき、土手際の地盤が軟弱であつたのと、積載ブルドーザーおよびトレーラー自体の重量とによつて、トレーラーの後部左側車輛が道路の土にめり込んでスリップして停車してしまいトレーラー荷台後部は若干左へ傾いた。

そこで光義も水村も寄り集つてきて、光義が、状況離脱のため室井にトレーラーのエンジンをかけて前進させようとし、室井もそのように試みたが、結果は、かえつて車輪のめり込みを深め、遂いに前進後退ともに不可能となつた。水村は、当初の指示場所に卸下しなかつたことを咎めたものの、事態の現実に対しては三者ともども無策であつて、北村は、被告会社に対し室井は訴外会社に対し、ともに報告と安全卸下作業のため応援を求めることをせず、光義が「他にどうしようもないから、このままここで卸ろそう」というのに対し、安全に対する危懼を示しながら結局これに押切られ、室井が、トレーラーに積んでいた車輪の滑止め材を後部車輪に当てて車輛の左傾を防ぐための努力(客観的には防ぐ力はなかつた)をし、水村と光義もこれに協力した。次いで、トレーラーに積まれた附属の木製渡し板を荷台後尾につけて荷台と地上とを連絡した傾斜面を作り、トレーラー運転助手として同乗していた訴外渡部英男に命じてトレーラーのブレーキを踏ませ、光義が荷台のブルドーザーの運転台に座してエンジンを始動し、渡し板の上を後退の形で降下を開始したところ、もともとトレーラーの後部は左傾している上に、地盤は軟弱、ブルドーザーには重量があり、その始動によつてめり込みと左傾とは増加し、車輪に当てた滑止め材は左傾を防ぐ上にほとんど無力であり、ブルドーザーのカタビラはかかる状況下においてはブルドーザーの左横滑りを止める力がない等の悪条件が重なり、室井が、危険を感じ、ブルドーザーの後尾を右方に振らして調子をとろうと考え、「右に寄れ」と光義に声をかけ、光義がこれに応じて操作したとき、カタビラが荷台後椽の金具上を左傾斜に従つて横滑りし、トレーラー荷台の巾に余裕がないため、ブルドーザーの体は荷台を外れると同時に横転し、土手下の水田に真逆様に落下した。水村は、この間、卸下を誘導する立場で、トレーラーの後方約五米あたりに立つており、事故発生の危険を認識しながら、万一を僥倖し、光義のなすに押されてなすままに委せ、敢えて阻止することをしなかつた。「危い。止めろ。」と光義に向つて叫んだがそのときブルドーザーは既に既定の方針によつて動いており、有効適切な事故防止の叫びとはならなかつたのである。

2以上の認定事実によれば、本件事故は、光義が自ら重大な過失によつて主原因を作つたものであるが、それに加えて、水村が現場監督として事故発生防止の安全作業義務を怠り、自己の監督下にある者の危険な意図に押切られ、危険を認識しながらこれを阻止せず、かえつて右意図を実施することを誘導する立場を執つたために発生したものといわなければならない。被告会社も訴外会社も、このような事態に直面した場合、現場担当者が直ちに会社に連絡報告し適切な応援処置を請求することをはばかり、自力で処理する他はないと思惟するようなことのないように、常時安全作業の万全態勢を整えていたかどうか、証拠上不明であるけれども、さりとて、上叙の水村の責任を免れしめるものではない。また、光義が自らの重過失によつて招いた事故だからとて、そのため当然に水村に責任がないことにはならない。水村は被告会社の使用人として被告会社の業務の執行につき現場監督としての義務に違背して現場作業員を死に致させたものであり、被告会社は民法第七一五条の規定による責を免れない。(立岡安正)

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